夢見る頃
「おきて、ジョウ」
ジョウの部屋のベットに腰を下ろし、眠っているジョウをゆり起こす。
「う・・・」
「ねぇ!昨日一緒に出かける約束したでしょぉ〜」
仕事も一段落し、休暇をとるために昨晩この惑星グライアに降り立ち、ラーデン宇宙港に寄航した。
降りてすぐ、入国手続きは済ませておいた。
この宇宙港は寄航中の乗員の乗船を許可している。
出かけるのは明日にして、そのまま<ミネルバ>へと戻った。
翌朝。
薄くなめらかな素材のキャミソールを重ね着したトップスにミニスカートという姿ですっかり準備の整ったアルフィンが、なかなか起きて来ないジョウに痺れを切らせ、部屋まで押しかけた。
何度も声をかけるがジョウは一向に起きる気配がない。
耳元で囁く。
「お・き・て」
うるさそうに潜り込むジョウ。
「ちょっとお!」
やさしく起こしていたアルフィンだが、その態度にムッとしてシーツを引き剥がそうとする。
その手をジョウにつかまれる。
「!」
そのまま手を引かれバランスを崩したアルフィンは、あっという間にベッドの中に引きずり込まれた。
「きゃっ」
目の前にはジョウの咽元。向かい合う格好で密着し、ジョウの腕の中に抱かれている。
一瞬の出来事にうろたえた。
ジョウとのあまりの近さに鼓動が速くなるのが分かる。
逃れようと身をよじった。
その動きに反応してか、さらにしっかりと抱き寄せられ、動きを封じられてしまう。
真っ赤になりながら、すがるように腕の中からジョウを見た。
寝てる・・・。
意識の無いジョウを見て、少し落ち着いた。
軽い寝息をたてている。
アルフィンを抱く腕からは既に力が抜けていた。
が、力の抜けた腕は重くアルフィンを絡めて離さない。
熱い身体。睡眠中のためジョウの体温は上がっている。
その熱さが薄い服を通して伝わってくる。
暖かい眠り。腕の中から見上げるジョウの寝顔。
暫くこのままでいたいという、あらがい難い誘惑。
どうしよう・・・。
「ジョウ」
そっと声をかける。
反応は無い。
「ねぇ、おきてよお」
「ジョウってば!」
「もお〜」
一人どぎまぎしているのが次第に腹立たしくなる。
仕事中はかすかな気配にも敏感に反応するくせに、休暇に入るとまるでスイッチを切ったかのように鈍い。
腕の中でじたばたしていると、さすがに。
「ん・・・」
どきん。ジョウの声で身体が固まった。
一生懸命起こしていたハズなのに、いざ起きそうになるとじっとしてしまう。
息を潜めてジョウの寝顔を見つめていると、瞼がぎゅっと閉じられ、ゆっくりと開いた。
「・・・」
2、3度瞬きをした。
「・・・」
しばらく見つめ合う。
寝起きで頭が働いていないのか、何の反応も無い。
迷った挙句、アルフィンの口から出た台詞は。
「・・・おはよう。ジョウ」
言ってから気恥ずかしさで全身が熱くなった。
次の瞬間。
がばっとジョウが跳ね起きた。
アルフィンは置き去りになった。仰向けのままベッドに横たわり、ジョウを見上げている。
「な・ななな・・・ア、アルフィン!」
あまりのジョウの驚きぶりに、少し拍子抜けした。
甘い雰囲気を期待していたわけではなかったが・・・。
意識の無いジョウはあんなに強引だったのにぃとか、自分で引き込んでおきながらとか、複雑な感情がよぎる。
あがいて乱れた服を直しながら、ゆっくりとアルフィンも起き上がった。
「ばか」
ベッドの上に座り込み、拗ねたように顔を背けた。
ジョウは状況が飲み込めない。
だが、さっきまで自分がベッドの中でアルフィンを抱きしめていたことは分かっている。
どうしてそんなことになってしまったのか。
アルフィンの態度で、自分が何かやらかしたのかと思う。
が。記憶が無い。
「あ、あの・・・さ」
「・・・」
「・・・お、俺・・・」
「・・・覚えてないの?」
「ああ・・・すまない」
ふぅ。やっぱりね。とアルフィンはひとりごちた。
おろおろしているジョウに。
悪戯心が刺激され、少し芝居がかって言ってみた。
「嫌だって言ったのに・・・」
アルフィンは自分の身体を抱くように両腕を回し、うつむき加減でジョウを見る。
「う・・・」
何ともいえない複雑な表情になるジョウ。
「うそよ」
すぐにケロリとした顔で答えると。
「え?」
ぽかんとした顔でジョウが見る。
ちょっと可愛い。
と、アルフィンは密かに心で呟く。
「何にも無いわよ。安心して。でも、あたしをベッドに引き込んだのはジョウですからね。
今のは驚かされたお返し」
「わ、悪かった」
真っ赤になりながら、ぽりぽりと頭をかいている。
「おかげで、服がしわくちゃだわ。着替えてくるから、ジョウも出かける用意して!」
そう言ってジョウの部屋を出た。
自室に戻り、夕べのファッションショーの第2候補に着替える。
脱ぎ捨てた服を見ながら、ジョウの寝息と熱い腕を思い出した。
「もうちょっと、じっとしてれば良かったかな・・・」
言って、恥ずかしさがこみ上げてきた。
さっきは平気な態度でジョウの部屋を出てきたけど。
今日一日、まともに顔が見れないかも・・・。
-fin-