理由
アバドンの件が片付き、ルクミンでの仕事が終わって暫くした頃。
「ねぇ、ジョウ。あたし、ちょっと気になる事があるの」
不意にアルフィンが訊いてきた。
「何だ?」
格納庫での作業の片手間なので、返事はしているものの軽く訊き流していた。
「ミス・ギャラクシーコンテストの事なんだけど」
思わず手を止めた。
ややこしい話題を持ち出されてしまった。
2人だけの時を見計らっていたのだろう。少し警戒する。
「・・・何だ?」
「あたしとルー、どっちが勝ったと思う?」
やっぱりその事か・・・と、溜息混じりに答える。
「・・・アルフィンだろ」
コンテスト直前に訊かれたときは仕事中だったこともあり、アルフィンのご機嫌を損ねるようなことはしないよう注意を払っていたが、もう終わったことだ。
出ない結果など、どうでもいい。
作業に集中してる振りを装うが、当然アルフィンは許してはくれない。
「ホントに?本当にジョウがそう思うの?」
疑わしそうにジッと見つめてくる。
「本当だ」
少し顔を引き締め、言い切っておく。
「嬉しいっ」
そう言うと、アルフィンは勢い良く飛びついてきた。
反射的に受け止める。
「でも、予選だけで結果も出ず、無期延期だもんねぇ」
それでもまだ、不満そうな顔をしている。
「そうだな・・・」
「また機会があったら、出てもいい?」
「そんな機会は無い」
「だから、例えばよぉ」
「駄目だ」
「どうして?」
「あれだって俺は反対だったのに、アルフィンが強引に押し切ったんだぞ」
「どうして反対なの?」
抱きついたままアルフィンは至近距離から顔を覗き込んでくる。
「それは・・・」
痛いところをつかれ、答え辛い。
「ちゃんと役目を果たしたわよ、あたし」
「まあ・・・な」
「あの配置だったから、すぐに対応出来たのよ?」
「分かってる」
「でも、気に入らなかったの?」
「・・・そうだ」
「だからガレオンでぶち壊したの?」
「ああ」
「やっぱり!」
しまった。うっかり答えてしまった。
「そんな事だろうと思ったのよね。わざわざガレオン持ち出して、あんなに壊すなんて。
確かにテロリストの鎮圧には有効だったわよ。でもあそこまでしなくてもいいじゃない!
会場が無事なら、予選続けられたかも知れないのにぃ」
激しくぶうたれるアルフィン。
テロリストへの早急な対応に、地上装甲車のガレオンは役に立った。
ガレオンで会場に突入するために一部外壁を破壊した。
コンテストの続行が出来なくなった直接の原因はこれだが、ガレオンが鎮圧しなければテロリストによってステーションに攻撃が加えられる予定だったのだから、どちらにしても無期延期は致し方ない結果だ。
「・・・ただでさえダーナのチームと競合していたんだ。優劣を決めるとその後の仕事がややこしくなるだろう」
「それだけ?」
抱きつかれたままの体勢のため、逃げられない。
不審の表情でさらに覗き込むように見つめられ、しぶしぶ答えた。
「・・・アルフィンを・・・」
「え?」
「あの姿のアルフィンを、あまり見せたくなかったからだ」
最後の方は小声になってしまった。
目を合わせられない。あさっての方を向いてしまう。
「水着のコト?」
「そうだ」
「どうして?」
不思議そうに小首をかしげている。腕の上をさらりと金色の髪が流れる。
「露出が多すぎだろう」
「見せるのが目的だもん」
「とにかく、イヤなんだ!水着はもう少し控えめのにしてくれ」
「えー、どうしてよー?」
ふてくされて声を荒げている。
「・・・まともに見れないんだよ」
仕方なく白状した。
でないと、どう言っても納得しないだろう。
「何で?普通、見たがるんじゃないの?」
「あのなぁ・・・」
こんな風に無邪気に擦り寄ってくるアルフィンのあの姿は、生々しすぎて見れない。
まともに見てしまったら目に焼きついてしまいそうだ。
「ジョウは見たくなかったの?」
本音としては見たい。が、他の奴に見せたくは無い。
その心理を分かって欲しい。
「見せるなら、俺だけにしてくれ」
どう説明して良いか分からずつい言ってしまったが、言った後で慌てて付け足す。
「あ、いや、ヘンな意味じゃなくて、だな・・・」
アルフィンの頬が少し赤くなっている。
「分かったわ・・・」
そう言いつつ首筋にしがみつき、顔を埋めてくる。
密着した頬。彼女の吐息が触れる。
「ジョウだけにする」
耳元で囁くように言われ、一瞬だが理性が飛びそうになる。
華奢な身体を抱く腕に軽く力を加え、抑えた。
「そうしてくれ」
照れ隠しのために不機嫌な声で、何とかそれだけ答えた。
「ふふ」
「何だ?」
「顔。赤くなってる」
両の掌で俺の顔を包み込みながらアルフィンが言う。
「フン」
ふてくされ、また顔をそむけた。その直後。
「!」
頬にそっと触れる柔らかな唇の感触。
きっと顔は、さらに真っ赤になっていることだろう。
「ね・・・ジョウ。今度一緒に水着見に行ってね」
「あんな場所で待たされるのは嫌だ」
以前にもこの買い物には付き合わされている。
彼女が試着する間、一人取り残され、非常に居心地が悪く目のやり場に困る。
「今度はカップル用の更衣室があるところにするから」
「カップル用?」
「そ、二人で入れるのよ。それならジョウだけに見せられるわ」
それはそうだろうが、俺に水着に着替えるところを見ろというのか?
冗談じゃない。一緒になんか入れるか。
「勘弁してくれ」
そう言って逃げるようにアルフィンから離れた。
「あん、もうっ!ジョウったらぁ」
「いいから仕事しろって」
「・・・はあ〜い」
-fin-