【1】
西暦2169年。
クラッシャージョウチームは、銀河標準時間で72時間も、予定より早く任務を終えた。しかも次の仕事はおおいぬ座宙域にある、恒星トールの第十七惑星メランコリだ。降ってわいた約120時間もの休暇を、突発的に母星アラミスで過ごすことに決めた。
「アラミスの衛星軌道上に乗りやした」
報告するタロスの声も、心なしか弾んでいる。
クラッシャーは、50代を境に多くは引退する。だが還暦という大台を迎えつつも、タロスは未だ現役だ。ジョウの補佐役を果たした今は、純粋にクラッシャー稼業を愛し、パイロットを続けている。
その黒髪には、所々白い物が混ざっていた。
「アラミスで休暇なんて、謹慎処分をくらった時くらいだよな」
タロスの背後、動力コントロールボックスのシートからトーンの高い男の声。リッキーだ。すでに23才。身長も170センチ台には入ったが、相変わらずのひょろりとした体躯をしている。顔つきも幾分精悍にはなったが、やはりどんぐり眼と少し出た前歯の愛嬌は変わらない。
「ラゴールの一件か? へっ、随分と古い話を持ち出しやがる」
タロスは舌打ちした。
「昔をすぐ思い出せるってのは、成長してねえ証拠だぜ」
そしていつものごとくつっかかる。
「へん! ボケ老人に言われたかないね」
「ベテランを敬えん器の小せえ奴だ」
「うるせえやい!」
また始まった。
ジョウは副操縦席でため息をつく。しかしこのレクリエーションも、それだけ気持ちが浮かれている証拠だろう。敢えて好きにさせておいた。
ジョウ27才。その風貌は成熟さを増し、いささかの衰えもない。特Aクラスの腕前を持ちながら、10代の頃は若造と嘗められたことが多々あった。しかし今はそれすら懐かしい。クラッシャーと言えばジョウ。代名詞としての責任がその両肩にのしかかっている。
「どんな所かしらアラミスって。わくわくしちゃう」
ジョウの背後、空間表示立体スクリーンのボックスシートに就く<ミネルバ>の紅一点。22才のミミーだ。リッキーと同じククル出身で、故マドック・ザ・キングの娘。ナタラージャ教壇とラダ・シンの一件で、14才の時にジョウのチームと偶然行動を共にした。
今は髪を栗色に染め、長いカーリーヘアである。手足もすらりと伸びて、リッキーと背丈があまり変わらない美しい女性へと成長した。
2年前にクラッシャーとして志願。リッキーへの積年の想いから、<ミネルバ>に押し掛けてきた。9年前、アルフィンがジョウを追って密航してきたのと似たケースである。
「休暇中、タロス達はどうするんだ」
ジョウが左方のタロスに訊く。
「適当なホテルでも探して、のんびりしますさあ」
「別行動と行きたいけど、俺ら達の拠点もタロスと同じホテルにしとく」
リッキーはミミーにウインクし、同意を求めた。ミミーも快く頷く。
「さて、大気圏に突入しますぜ」
タロスはコンソールのボタンをいくつか押し、突入体勢を整えた。ジョウはメインスクリーンに大きく迫るアラミスに視線を移す。
徐々に胸が高鳴ってきた。